コートの肩でドアを押しあけ

朝から運動もせず枯坐（こざ）したぎりであるから、不充分な血液はことごとく胃のために働いて手足の方へは少しも巡回して来ない。

真冬を思い起こさせるような鋭い冷たさ

外は凍りつくような寒夜である。 （こういうときには、ぜひとも蕎麦を食べなくては……） 　と、おもい、近くの浜町の〔藪〕へおもむき、鴨南ばんで熱い酒をのんだ。酒と蕎麦の味が、このような寒夜には、腸へしみとおるようにうまいものだ。

空気が凍って固形の微粉になったような冷たさが皮膚に跳ね返る

（暖かい室内）お稲の身のうごきにも春の晩のような温（ぬる）い空気が部屋にうごく。

硬い粉のような冷たい霧

厚い登山用のパーカを頭からかぶった。それでも体に浸み込んでくる寒さは防ぎきれなかった。

鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ顫（ふる）えていた。

毛穴の一つ一つが、暑さにうだった犬のように、だらりと舌を出してあえいでいる。