神のような存在が介在しているのではないかと疑いたくなるような偶然

頭上には泰然と三日月がある。その美しさは平凡な奇跡だ。

才能らしきものの見当らぬ私にとって、現在かくある小説家という職業そのものが奇蹟であった。いわば大空への 飛翔 を夢見た少年が、がむしゃらに徒手空拳を振り回すうちに、鳥になったようなものである。

「今までが幸運だったんだよ」とぼくは言った。「ただただ単純に。田植えの時期にうまく長雨が降るみたいに」

僥倖だ。干からびた田に、気紛れで降り注ぐ雨と同じではないか。

自分の持っている力と目指すものの方向性が一致したので彼は成功した

宿命的に避けられない血の重みを確かに感じて

「殻に閉じこもるのは良くない」と以前に成瀬が一度言ったことがあるらしいが、すると田中は、「違うんだよ」と怒ったという。「僕が世界を閉じ込めているわけ。僕の部屋の壁が世界を囲んでいるんだよ。閉じ込められているのは、僕以外の全員で、外にいるのは僕だけってわけ」

不意にどこからか、ささやかな偶然が舞い降りてきた気がした。

誤りと陥穽にみちた生を踏み越えて行く