まるで鏡にでも見入るようにそのはがきを見つめ

目つきは鋭く、一つの見落としも我慢できないといった雰囲気で

タオルの下の死人の顔を見透そうとするかのようにじっと眺めた。

刮目（かつもく）する。

姉川は強い眼つきで画面を射た。何秒かの間瞳がそこから動かない。画面が眼を摑んで離さないかのようだった。姉川は喧嘩でもしそうな表情になった。

（十和子を見つめる黒崎の目）黒崎のあの、十和子を突き抜けて遠い焦点を結ぶ高貴な獣のような目。

彼女はちょっと顎を引いて、唇を曲げたまましばらく僕を上から下まで眺めまわした。今にもポケットから巻尺をとりだして体の各部のサイズを測りはじめるんじゃないかという気がするくらいだった。

質のよいものばかりで、俺は眼を洗われ、蘇生する思いであった。

目は涙で潤い始め、視野にあるものがそれぞれの輪郭からはみ出していく

（カジカガエルをじっと見つめる）真近に河鹿を眺めていると、ときどき不思議な気持になることがある。芥川龍之介は人間が河童（かっぱ）の世界へ行く小説を書いたが、河鹿の世界というものは案外手近にあるものだ。私は一度私の眼の下にいた一匹の河鹿から忽然（こつぜん）としてそんな世界へはいってしまった。その河鹿は瀬の石と石との間に出来た小さい流れの前へ立って、あの奇怪な顔つきでじっと水の流れるのを見ていたのであるが、その姿が南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物そっくりになって来た、と思う間に彼の前の小さい流れがサーッと広びろとした江に変じてしまった。