仕事のない日は途方に暮れる

木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。

散漫な時間がダラダラと過ぎる。

（両手を）到来の棒鱈（ぼうだら）のように手持無沙汰にぶら下げている

（めったに人の通らない路で人間観察なんて）僕みたいな男はよくよくの閑人なんだ

（電話の時報）時報を聞くのが僕は好きだった。そこはどこまでも果てしのない、何ものにも乱される恐れのない、安定した世界だった。たとえ僕がクシャミをしても、お姉さんは迷惑そうな様子さえ見せず、ひたすら時刻を知らせ続ける。一秒ごとに刻まれる歯車の船の 舳先 に立ち、次々と誕生する新たな時刻を、まっさらな海面に向かって宣告する。大変な重労働だと思われるのに、口調は滑らかだ。

（久しぶりに会った母は）一緒に暮らしていたときより、やっぱり 老けた。私は時間のないような気分で生活しているので、母に会う度にふいにきちんとした未来に、タイムマシン的にひゅっと運ばれた気がする。母によって初めて時間の経過を認識する。

牛のようにゆっくりしたスピードで

手持不沙汰（てもちぶさた）を紛らすための意味だけに、そこの棕櫚（しゅろ）の葉かげに咲いている熱帯生の蔓草（つるくさ）の花を覗（のぞ）いて指して見せたりした。

（ピアノの調律に夢中）ピアノの前にいる間は、時の流れの外にいる。神経が張り詰めているせいか、疲れも感じない。ひととおり調律を終えて気がつくと、四時間近くが経っていた。