それは一つの推測で、確乎（かっこ）たる証跡があるわけではなかろう。

混乱を鎮めようと努めていた。頭の中で音がするようだった。組み立てていた仮説が崩れる音だ。

確度の高い仮説

根拠を欠いた、ほとんど理屈の通らない憶測

情報が積み木だとすれば、情報から推測する仮説は、積み木の城だ。つい先ほどまで、成瀬の頭の中には城ができあがっていた。林の死体を発見した時にも、その城が崩れることはなかった。自分の推測は誤っていないと確信したほどだ。それが電話のリダイヤルボタンを押して、響野が出た瞬間に崩れた。予期していない積み木が上から降ってきたようだった。 　響野が電話に出る理由が見あたらない。

そんなどうでもいいようなことが、突然頭の中にぽっかり雲みたいに浮かんだ。

ふと閃く

ぞっとするほど勘が冴える

目の前の人物が、自分を指名した意図に思い至ったのである。

本能的に気づく