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たいていの人は、試食コーナーでぎごちなくなる。急に重厚になってしまう。 特におじさんは、試食を男女問題と同じように考えてしまうようだ。 「一度手をつけたら、それなりの責任をとらねばなるまい」 と考えてしまう。 だから態度が重厚になる。 「どうぞ」と試食の小皿を突き出されると、本心は食べてみたいのに急にムッとした態度をとり、 「オレをなめるのか」 とばかりに、険しい表情でおばさんを睨みつけるおじさんもいる。 試食は、食べてみておいしかったら購入するという正常な商取引である。 しかし見た目には、なにかこう、食べ物をタダで恵んでもらっているように見えないこともない。 おばさんのほうの態度にも、わずかではあるが、恵んでやっているという態度がほの見える。 そこのところが、おじさんのプライドをいたく傷つけるようだ。 「オレはそこまで落ちぶれてない」 という思いに駆られ、急に口惜しくなり、激しく手を振って居丈高になったりするのである。 楊子の先の、食べ物屑のようなものに、いちいち責任をとったり居丈高になったりする必要はないのだが、おじさんというものは事を重大に考えてしまうのである。
東海林 さだお「タコの丸かじり (文春文庫)」に収録 ページ位置:76% 作品を確認(amazon)
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試食(コーナー)
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前後の文章を含んだ引用
......手が出るようになれば、その人のゴキブリ指数は高いといわねばならない。 ごく自然に手が出、ごく自然に味わい、「また今度にしよう」などと軽やかにいえる人は少ない。 たいていの人は、試食コーナーでぎごちなくなる。急に重厚になってしまう。 特におじさんは、試食を男女問題と同じように考えてしまうようだ。「一度手をつけたら、それなりの責任をとらねばなるまい」 と考えてしまう。 だから態度が重厚になる。「どうぞ」と試食の小皿を突き出されると、本心は食べてみたいのに急にムッとした態度をとり、「オレをなめるのか」 とばかりに、険しい表情でおばさんを睨みつけるおじさんもいる。 試食は、食べてみておいしかったら購入するという正常な商取引である。 しかし見た目には、なにかこう、食べ物をタダで恵んでもらっているように見えないこともない。 おばさんのほうの態度にも、わずかではあるが、恵んでやっているという態度がほの見える。 そこのところが、おじさんのプライドをいたく傷つけるようだ。「オレはそこまで落ちぶれてない」 という思いに駆られ、急に口惜しくなり、激しく手を振って居丈高になったりするのである。 楊子の先の、食べ物屑のようなものに、いちいち責任をとったり居丈高になったりする必要はないのだが、おじさんというものは事を重大に考えてしまうのである。 その点、女の人、特におばさんたちには、そういうところはミジンもない。 スッと楊子に手を出し、ごく自然に、「そうね。でも、また今度ね」 などと明るくいって、さっ......
単語の意味
居丈高(いたけだか)
険しい・嶮しい(けわしい)
見た目(みため)
居丈高・・・1.相手を押さえつけるような態度をとるさま。威圧的なさま。
2.座高が高いさま。座ったときの背が高いさま。
2.座高が高いさま。座ったときの背が高いさま。
険しい・嶮しい・・・1.山や崖などの斜面が急で、登るのが困難なさま。
2.問題を抱えている事態の解決に困難が予想されるさま。
3.緊張や怒りのために、言葉や表情がきついと感じられるさま。
4.自然現象などが、荒々しく近寄りがたいさま。激しいさま。
2.問題を抱えている事態の解決に困難が予想されるさま。
3.緊張や怒りのために、言葉や表情がきついと感じられるさま。
4.自然現象などが、荒々しく近寄りがたいさま。激しいさま。
見た目・・・外部から見たときの、そのものの印象。外から見た感じ。外観。外見。
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たいていの人は、試食コーナーでぎごちなくなる。急に重厚になってしまう。 特におじさんは、試食を男女問題と同じように考えてしまうようだ。 「一度手をつけたら、それなりの責任をとらねばなるまい」 と考えてしまう。 だから態度が重厚になる。 「どうぞ」と試食の小皿を突き出されると、本心は食べてみたいのに急にムッとした態度をとり、 「オレをなめるのか」 とばかりに、険しい表情でおばさんを睨みつけるおじさんもいる。 試食は、食べてみておいしかったら購入するという正常な商取引である。 しかし見た目には、なにかこう、食べ物をタダで恵んでもらっているように見えないこともない。 おばさんのほうの態度にも、わずかではあるが、恵んでやっているという態度がほの見える。 そこのところが、おじさんのプライドをいたく傷つけるようだ。 「オレはそこまで落ちぶれてない」 という思いに駆られ、急に口惜しくなり、激しく手を振って居丈高になったりするのである。 楊子の先の、食べ物屑のようなものに、いちいち責任をとったり居丈高になったりする必要はないのだが、おじさんというものは事を重大に考えてしまうのである。
東海林 さだお「タコの丸かじり (文春文庫)」に収録 amazon
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