飛鳥のごとく駈け寄った影

稲妻のように素早い

矢のような素早さで

ナイフのように切れ味のいい動き

（トカゲは）太郎の足音に驚いたのであろう、彼の影の落ちるよりも早く、一度にざわめきながら、四方へ散った。

何度か二人とも時計を確認して、遅い時間になりつつあることに気づいていた。

がくんと前のめりになって車が停まる。その反動がおさまらないうちに男はドアを開け外へ出た。

ビール・グラスの縁を指先でいじりまわしながら

風のような素早い動き

何をしていいのか見当もつかない。いつまでも壁を睨んでるわけにもいくまい、と自分に言いきかせる。それでも駄目だった。卒論の指導教授がうまいことを言う。文章はいい、論旨も明確だ、だがテーマがない、と。実にそんな具合だった。久し振りに一人になってみると、自分自身をどう扱えばいいのかが上手く把めなかった。《…略…》まるで捜し物の最中に、何を捜していたのかを忘れてしまったような気分だった。