形のない、気味の悪い「死」が、しんぼうづよく、丹塗 りの柱の向こうに、じっと自分の息をうかがっているのを感じた。残酷に、しかもまた落ち着いて、自分の苦痛をながめているのを感じた。そうして、それが少しずつ居ざりながら、消えてゆく月の光のように、次第にまくらもとへすりよって来るのを感じた。
芥川龍之介 / 偸盗 ページ位置:91% 作品を確認(青空文庫)
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瀕死・虫の息
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......ぬ。虫のように、なんの造作 もなく死んでしまう。――こんな取りとめのない考えが、暗 の中に鳴いている藪蚊 のように、四方八方から、意地悪く心を刺して来る。猪熊の爺は、形のない、気味の悪い「死」が、しんぼうづよく、丹塗 りの柱の向こうに、じっと自分の息をうかがっているのを感じた。残酷に、しかもまた落ち着いて、自分の苦痛をながめているのを感じた。そうして、それが少しずつ居ざりながら、消えてゆく月の光のように、次第にまくらもとへすりよって来るのを感じた。なんにしても、自分は死にたくない。―― 夜はたれとか寝 む 常陸 の介 と寝 む 寝 たる肌 もよし 男山の峰のもみじ葉 さぞ名はたつや また、鼻歌の声が、油しめ木 の音のような呻吟 の......
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メスを手に入れると、顎の下に差し込み、下腹部まで真一文字に分厚い筋肉を引き裂いていった。死後十二時間を経た屍体内部から体温は完全に抜け切っている。カッターで肋骨を折り、一本一本除去して左右の肺を取り出し、助手に渡す。
鈴木 光司 / らせん amazon
泥水の中でぴいぴい泣く捨て猫のように、邪悪で根源的な生命の力。
吉本 ばなな「N・P (角川文庫)」に収録 amazon
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