唇を円めて煙草の煙の輪を造っては時々将棋盤に吹きかけていた
野間 宏 / 暗い絵「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置：21% 作品を確認（amazon）
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タバコ
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......声には嘲りの響きがあった。「おでんの定食。」寝転んでいる江後保が、料理屋の仲居の口調を真似て言った。「おでんの定食。」将棋を見るでもなく膝の上に岩波文庫を載せ、唇を円めて煙草の煙の輪を造っては時々将棋盤に吹きかけていた美沢多一郎が江後保の口調を引き取って言った。「おでんの定食。顎の用心。滅法うまい蒟蒻おでん。」そして、深見進介の方を向くと、何か笑いを堪えているような細い頰が、......
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指先には火の点いていない煙草がはさまれ、その先端は空中に幾つかの複雑な、そして意味のないもようを描きつづけている。
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