(銃を捨てて後悔)私はそのまま銃を水に投げた。ごぼっと音がして、銃は 忽ち見えなくなった。孤独な兵士の唯一の武器を棄てるという行為を 馬鹿 にしたように、 呆気なく沈んだ。あとに水は依然として燻銀に光り、同じ小さな渦を繰り返していた。 私を取り巻く野が、不意に姿を変えた。月光の行き 遍 った美しい夜景が、腰の剣一つを頼りに越えて行かねばならぬ広さと映った。遠方から敵を 斃 し得る武器を失った私に、空間は拡がった。剣をもって行動し得る半径の無限の 堆積 として、迫って来るように思われた。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 ページ位置:45% 作品を確認(amazon)
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後悔する
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前後の文章を含んだ引用
......、敵にとっては危険な人物になったが、私が孤独な敗兵として、国家にとって無意味な存在となった後も、それを持ち続けたということに、あの無辜の人が死んだ原因がある。 私はそのまま銃を水に投げた。ごぼっと音がして、銃は忽ち見えなくなった。孤独な兵士の唯一の武器を棄てるという行為を馬鹿にしたように、呆気なく沈んだ。あとに水は依然として燻銀に光り、同じ小さな渦を繰り返していた。 私を取り巻く野が、不意に姿を変えた。月光の行き遍った美しい夜景が、腰の剣一つを頼りに越えて行かねばならぬ広さと映った。遠方から敵を斃し得る武器を失った私に、空間は拡がった。剣をもって行動し得る半径の無限の堆積として、迫って来るように思われた。 私は後悔したが、諦めていた。一度川底の泥に埋った銃を、再び使用可能の状態に戻す困難は別にしても、拾えばまた棄てるほかはないのを、私は知っていた。 私は歩き出し......
単語の意味
堆積(たいせき)
月光(げっこう)
夜景(やけい)
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵(すがた)
腰(こし)
堆積・・・何重にも高く積み重なること(もの)。雨風など自然の力で土砂が運ばれて、地表や水底にたまること。
月光・・・月の光。
夜景・・・夜の景色。
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵・・・1.身体の形。からだつき。人のからだの格好。衣服をつけた外見のようす。
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
腰・・・1.胴体の下の方の部分で、上体と下肢(かし)をつなぐ部分。座る姿勢をとったとき、骨盤あたりの折り曲がる部分を漠然という。ウエスト。
2.衣服やはかまの腰にあたる部分。
3.あらゆる物の、腰に相当する部分。中ほどより少し下の部分。
4.紙や布などの、しなやかで破れにくい性質。
5.餅(もち)や粉などの、粘りや弾力。
6.刀や袴など、腰につけるものを数えるときの単位。「刀ひと腰」「袴ひと腰」
7.何かをする際の姿勢や構え。「及び腰」「けんか腰」など。
2.衣服やはかまの腰にあたる部分。
3.あらゆる物の、腰に相当する部分。中ほどより少し下の部分。
4.紙や布などの、しなやかで破れにくい性質。
5.餅(もち)や粉などの、粘りや弾力。
6.刀や袴など、腰につけるものを数えるときの単位。「刀ひと腰」「袴ひと腰」
7.何かをする際の姿勢や構え。「及び腰」「けんか腰」など。
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後悔に駆られ、酷く惨めな気持ちになった。
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
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顳顬 に血汐が押し寄せ、後悔が全身をだるくさせてきた。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
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ノートを持つ手は力が入りすぎて、表紙がぐしゃりと捩れていた。
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
心にはまだ時々かすかな反省《…略…》が刺のように残っていた。
徳田 秋声 / 爛 amazon
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