(空爆の直後)夕暮になって、やっと敵機が姿を消した。すると、おそろしいほど、あたりは静かになった。空がどす黒くよごれ、耳をすましているとパチ、パチと焼ける音にまじって、鈍いうつろな反響が聞えてくる。最初、ぼくはその反響に気がつかなかったのだ。けれどもその虚ろな 呻き声に似たものは次第にはっきり聞きとれてきたのである。《…略…》それは確かに多くの人間たちの呻き声に似ていた。医者であるぼくはあの呻き声は知っている。恨み悲しみ、悲歎、 呪詛、そうしたものをすべてこめて人々が呻いているならば、それはきっと、こんな音になるにちがいなかった。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 ページ位置:71% 作品を確認(amazon)
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空襲・空爆
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......をみせた。それがたち去ると更に第三の群があらわれる。県庁や市役所の建物も新聞社やデパートも次々に炎と煙とに包まれていくのが、ここからも手にとるようにわかった。 夕暮になって、やっと敵機が姿を消した。すると、おそろしいほど、あたりは静かになった。空がどす黒くよごれ、耳をすましているとパチ、パチと焼ける音にまじって、鈍いうつろな反響が聞えてくる。最初、ぼくはその反響に気がつかなかったのだ。けれどもその虚ろな呻き声に似たものは次第にはっきり聞きとれてきたのである。「あれはなんや」とぼくは勝呂にたずねた。「建物が崩れる音やろうか」勝呂も耳をすました。「いや、違う。爆風やろ」けれども建物の崩れる音ならばもっと烈しい筈だ。爆風が空襲のあとに聞える筈はない。それは確かに多くの人間たちの呻き声に似ていた。医者であるぼくはあの呻き声は知っている。恨み悲しみ、悲歎、呪詛、そうしたものをすべてこめて人々が呻いているならば、それはきっと、こんな音になるにちがいなかった。「空襲で死んでいく連中の声かなあ」とぼくは呟いた。勝呂は黙ったまま眼をしばたたいていた。そして、それっきり、ぼくはその声を忘れていた。だがその夜、ぼくは寝床の中......
単語の意味
虚ろ・空ろ・洞ろ(うつろ)
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵(すがた)
虚ろ・空ろ・洞ろ・・・1.空洞(くうどう)。空っぽ。中身が何もないこと。
2.心が空っぽになり、生気がないさま。表情がボーっとして気持ちがないさま。
2.心が空っぽになり、生気がないさま。表情がボーっとして気持ちがないさま。
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵・・・1.身体の形。からだつき。人のからだの格好。衣服をつけた外見のようす。
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
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空襲・空爆の表現・描写・類語(イベントのカテゴリ)の一覧 ランダム5
(F市での空襲)医学部とF市とは二里も離れてるのに窓がふるえるほど重い地ひびきが伝わり、高射砲の 炸裂 する音がパアン、パアンと聞えてきた。灰色の雲の中をB 29 が鈍い眠い音をたてて何時までも飛んでいた。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
(空襲直後)屋上に登るとF市の東西南北から一斉に白煙がたちのぼっている。煙がうすれるたびにダイダイ色の炎がゆれるのがはっきりと見えた。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
本館の屋上にのぼると、日ごとにF市の街が小さくなっていくのがよくわかる。実感としては小さくなると言うよりは焼けた部分が黄いろい砂漠のように毎日、拡っていくのだ。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
(空爆の直後)夕暮になって、やっと敵機が姿を消した。すると、おそろしいほど、あたりは静かになった。空がどす黒くよごれ、耳をすましているとパチ、パチと焼ける音にまじって、鈍いうつろな反響が聞えてくる。最初、ぼくはその反響に気がつかなかったのだ。けれどもその虚ろな 呻き声に似たものは次第にはっきり聞きとれてきたのである。《…略…》それは確かに多くの人間たちの呻き声に似ていた。医者であるぼくはあの呻き声は知っている。恨み悲しみ、悲歎、 呪詛、そうしたものをすべてこめて人々が呻いているならば、それはきっと、こんな音になるにちがいなかった。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
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商店街のはずれから境内への道まで露店がひしめきあっている。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
負傷者の血と全員の汗の臭いが混じり、奇妙な臭気を醸し出している。だが誰一人としてそれが気にならない。
拓殖久慶 / ラオス内戦 amazon
帝都の空を蹂躙するB29
中島 京子「小さいおうち (文春文庫)」に収録 amazon
狐火のような焔が暗い空からチョロチョロ這い降りて来ては、ぱっと地上に燃えつく焼夷弾
山崎 豊子 / 暖簾 amazon
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