世間に住みつく根を失って浮草のように流れている。

毎朝規則正しく起床、満員電車に揺られ、立ち食いそば屋で腹を満たし、朝礼で大声を張り上げ、煙たがれながらもアポイントメントをとりつけ、お昼は格安ランチセットの列に並び、午後もワイシャツが汗でびっしょりなるほど働いて、夜は先輩の先にそれなりに付き合って、夜中の電車で帰宅して。

要するに決断を先送りにして、周りの空気に流されながら行き先を決めていくタイプだな。行きたくもない高校に通い、吸いたくもない煙草を吸い、やはりみんなが行くからという理由で名前も聞いたことのない私立の大学を卒業する。そうしてろくな志もないくせに会社員になって、ずるずると生活をするんだよ。退屈な日常に嫌気がさして、で、賭けごとに手を出して、またずるずると落ちていくタイプだ

およろしかったら、是非共自分のところまでいらして頂けませんでしょうかという美佐子の言葉に、彼が心を動かしたり、でもまた面倒なことになりはしないかなどと思ったりしているうちに、いつの間にか承諾したというような形になってしまった。

ずっと受身の姿勢で生きてきた。

（専業主婦、子なし）今の自分の生活は、島流しと実は大差ないのではないか。こんな継ぎ目のないような生活をしていると、時間だけはたっぷりあるので、ついそんなしょうもないことを考えてしまう。果実のなる木があり、動物たちと好きなだけたわむれる時間があり、島は島でも楽園や極楽の類には違いないが、それでもたまに、無性に自分が元いたところが恋しくなってしまうのである。結婚したばかりの頃は、このままでは自分が駄目になると、島からの脱出をしばしば本気で考えもした。が、すぐに果実の奪い合いや、他人とのいざこざを思い出し、結局はこの極楽を捨てるほどの理由も見つからず、自分がどこか切り離された人間であるかのように感じながら、こうして今もふわふわ極楽の住人をしてしまっている。

両親の仲がきわめて悪かったせいで、家の中は荒廃していた。

蜜のように甘い夫婦仲に不安な影がさす

退屈な、救いのない、枯野のようなあけくれ

張り合いのないほど静かな暮らし