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(昔の男に電話をかける)いつかかけてしまうかもしれないと恐れ続けてきた電話を、八年たった今日かける。  最後の数字を押す。指先で過去に触れる。十和子の過去のすべてである男に触れる。呼び出し音が鳴っている。一回、二回……。鳴っている、黒崎の身体のすぐそばで。三回……、四回、……五回。胸が締めつけられる。今にも電話をつかもうとする黒崎の手が見える。指の長い滑らかな手。そのとき急に、十和子の腹の奥底から目の 眩むようなものが 迫り上がってくる。光が真っ白に弾けて、手のなかの電話機が生き物のようにうごめく。怖い。どうしてだろう、黒崎俊一が怖い!
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 ページ位置:44% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......ははじめからこちらの番号にかけたかったような気がしてくる。いつもかけたかった。無意識にこの数字を押してしまいそうで電話に触れるのが怖かった。でもとうとうかける。いつかかけてしまうかもしれないと恐れ続けてきた電話を、八年たった今日かける。 最後の数字を押す。指先で過去に触れる。十和子の過去のすべてである男に触れる。呼び出し音が鳴っている。一回、二回……。鳴っている、黒崎の身体のすぐそばで。三回……、四回、……五回。胸が締めつけられる。今にも電話をつかもうとする黒崎の手が見える。指の長い滑らかな手。そのとき急に、十和子の腹の奥底から目の眩むようなものが迫り上がってくる。光が真っ白に弾けて、手のなかの電話機が生き物のようにうごめく。怖い。どうしてだろう、黒崎俊一が怖い! 七回目が鳴りはじめた途端に切断ボタンを押す。そのまま充電器にもどそうとする子機が傾いて、手から滑り落ちる。床板に当たったプラスティックが硬い音をたてる。 次に......
単語の意味
身体(しんたい)
指先(ゆびさき)
胸(むね)
腹(はら)
身体・・・人のからだ。肉体。
指先・・・手や足の、指の先端。指の先っぽ。指頭(しとう)。指端(したん)。
・・・1.体の前面で、首と腹との間の部分。また、その内側にある心臓や肺臓、胃などの内臓。
2.(胸に宿るとされている、)心。想い。心中。
3.乳房(ちぶさ)。おっぱい。
・・・1.ヒトなど動物の、胴の下半部の前面と考えられる側。背(せ)の反対側の部分。また、その内側にある内蔵。
2.(腹の内面にあるものとして)心。考え。感情。気持ち。また、度量や度胸、気力もいう。
3.物の中央の膨らんだ部分。「指の腹」「銚子の腹」など。
4.背に対して、物の内側の部分。
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