古い滓（おり）が水面へ浮んで来たように思い出されて来た。

次々質問すると糸がほぐれて記憶が恢復（かいふく）する

カセットテープを巻き戻すように、思考を遡る。

天吾は息を止め、こめかみに指を当てて記憶をより深いところまでのぞき込もうとした。その今にも切れてしまいそうな意識の細い糸をたどっていった。

（記憶をたどる）私は糸紡ぎの媼（おうな）のように、しばらくだまって糸車の前に坐ろう。

象みたいに記憶力が良くて、つまらないことをいつまでもいつまでも覚えている。頭が悪いぶんを記憶力で補っているのだ。

人の顔も風景も鮮明に脳裏に浮かぶ

（頭の中で過去を思い返して整理する作業を半年間毎日続けても）退屈や倦怠というものをまるで感じなかった。何故なら、僕が体験したその出来事は余りにも巨大であり、余りにも多くの断面を有していたからだ。巨大で、そしてリアルだった。手を触れられるくらいに。それはまるで夜の闇の中にそびえたつモニュメントのようだった。そしてそのモニュメントは僕ひとりのためにそびえていたのだ。

（自殺した娘の真由）真由が死んでから、子育てというのは母にとって永遠の 呪縛 となった

思い出が絵巻物のように繰り拡げられる