私は、まだこのひとと居たかった。このひとの持つ淋しさの層は、人類の歴史と同じくらい厚く、そこに吹く風は誰も振り向かなくなった墓石の上を渡って行くように寒々しかった。それでもそれが人間のもともと持っている淋しさによく似たエッセンスを持っているので、このひとと離れ難く、本当は淋しくて仕方ないのにないことにしてごまかした幾千もの夜の痛みが、一挙に吹き出してきた。そして、その洪水に押し流されないためには、このひとといるしかないように思えた。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 ページ位置:78% 作品を確認(amazon)
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とてもさびしい
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......で会って話せるといいと思うんですけど……聞いてみます。弟には少なくとも。きしめんもきっとわかると思います。そんなにこだわりがある人じゃないから。」 私は言った。私は、まだこのひとと居たかった。このひとの持つ淋しさの層は、人類の歴史と同じくらい厚く、そこに吹く風は誰も振り向かなくなった墓石の上を渡って行くように寒々しかった。それでもそれが人間のもともと持っている淋しさによく似たエッセンスを持っているので、このひとと離れ難く、本当は淋しくて仕方ないのにないことにしてごまかした幾千もの夜の痛みが、一挙に吹き出してきた。そして、その洪水に押し流されないためには、このひとといるしかないように思えた。 私はもう彼の催眠にかけられてしまったのだろうか? 切ない。ビルの窓も、人々の笑い声も、ちょうちんの灯りも、ものがなしく心細い。「あの、もうひとつ聞いていいです......
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