記憶のページを無意識にめくる

「あの時何をしたんだ？」言葉が頭に達するまで数秒を要した

（失踪した好きな人が残した手紙を読み返す）ぼくは何度も何度もその文章を読んだ。記憶して暗唱できるくらい綿密に読み返した。そしてそれらを読み返しているあいだだけ、ぼくはすみれとともに時間を過ごし、彼女と心をかさねあわせることができた。それはぼくの心を、ほかのどんなものよりも親密に温めてくれた。茫漠とした夜の荒野を抜けていく汽車の窓から、遠くの農家の小さな明かりが見えるように。それはあっという間に背後の闇に吸い込まれて消えてしまう。でも眼を閉じると、その光の点はしばらくのあいだ網膜の上に淡くとどまっている。

記憶の中から、光景が激しい光を浴びせられたように浮きあがってくる

（回想録を書く）愛した、という強烈な記憶だけが絡まり合い、ほつれ合って、丸まった毛糸玉のようになってしまっているのを丹念にほどいていく

追想は多くの迷路をたどりぬいた末に、不思議な仮睡状態に陥る前まで進んで来た。

とりとめのない記憶が散漫に流れる

デビューのときから歌い続けている曲は、もう頭で何も考えずとも、自転車に乗るような感覚で踊ることができる。

なにかが記憶の底から出たがっている。

記憶には手続き記憶、意味記憶、エピソード記憶の三種類があるのは有名ですね。《…略…》それぞれの記憶は脳の別の部分が保管しています。そのため、ある記憶ははっきりと憶えているのに、別の記憶はさっぱり保管できないということがままあります。アルツハイマーという病気はエピソード記憶を失うもので意味記憶についてはしっかりしています。だから日々の生活には困らないのです。