あけすけした口調

意を決したような声

日の光にむせるような声

ついて行きかねる口調

細い金属の線を思わせる、繊細な微かに震えを帯びた感じの声

過ぎ去った日々のとりとめのない思い出

思い出は常に美化される

記憶の闇の中からあの日の光景が蘇ってくる

思い出をいっぱいに心に溜める

自分の中にある古い記憶を整理して順番に並べると、一番最初の記憶が一番鮮やかなフィルムで焼き付けられていることに気づく。

私は幼い記憶の風景を思い浮かべた。

初恋いの憶い出が、白い泡のように、ふつふつと胸によみがえって来るのを覚えた。

頭の中で時を追って思い出す。

もはや忘れたことすら気づいていない記憶がたくさんある。忘れてはいないのだが、もう死ぬまで思い出さないかもしれない記憶もあって、考えようによったら忘れるよりもその方が残酷だ。

時間にして十秒ほどのその鮮明な映像は、前触れもなしにやってくる。予兆もなければ、猶予もない。ノックの音もない。《…略…》無音の津波のように圧倒的に押し寄せてくる。気がついたとき、それはもう彼の目の前に立ちはだかり、手足はすっかり痺れている。時間の流れがいったん止まる。まわりの空気が希薄になり、うまく呼吸ができなくなる。まわりの人々や事物が、すべて自分とは無縁のものと化してしまう。その液体の壁は彼の全身を呑み込んでいく。世界が暗く閉ざされていく感覚があるものの、意識が薄れるわけではない。レールのポイントが切り替えられるだけだ。意識は部分的にはむしろ鋭敏になる。恐怖はない。しかし目を開けていることはできない。まぶたは固く閉じられる。まわりの物音も遠のいていく。そしてそのお馴染みの映像が何度も意識のスクリーンに映し出される。身体のいたるところから汗がふきだしてくる。シャツの脇の下が湿っていくのがわかる。全身が細かく震え始める。鼓動が速く、大きくなる。

相手を飛び上がらせるほどの大声

彼は墻壁（しょうへき）の欠所（けっしょ）に吶喊（とっかん）して来た。

自分はこちらにいる、歌は向うにある、その間を山川の一本の丸木橋のようにただ囗だけでつないでいるような歌い方

沈黙はとくに居心地の悪いものではなかった

三人のうち真ん中の子の叫喚がずば抜けて騒がしい