彼女は蒔野を愛していた。折々、胸を押し潰されるほどに苦しい恋の衝動も経験していたが、それと同時に、彼女は蒔野のことが、何と言うのか、人間としてすっかり好きになっていた。 彼と向かい合っていると、何も特別なことのない単なる日常会話が、人生の無上の喜びと感じられるような一瞬がしばしば訪れた。それは、ほとんど不可解とさえ思われるほどの、何かしら奇跡的なことだった。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 ページ位置:53% 作品を確認(amazon)
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......できたのだった。 自分は、リチャードのように蒔野に対して振る舞うべきだろうか? しかし、それに効果がないことは、外でもなく、彼女自身が嫌というほど知っていた。 彼女は蒔野を愛していた。折々、胸を押し潰されるほどに苦しい恋の衝動も経験していたが、それと同時に、彼女は蒔野のことが、何と言うのか、人間としてすっかり好きになっていた。 彼と向かい合っていると、何も特別なことのない単なる日常会話が、人生の無上の喜びと感じられるような一瞬がしばしば訪れた。それは、ほとんど不可解とさえ思われるほどの、何かしら奇跡的なことだった。 この世界は、自分で直接体験するよりも、一旦彼に経験され、彼の言葉を通じて齎された方が、一層精彩を放つように感じられた。その少し歪な繊細さも、段々と理解できるよ......
単語の意味
胸(むね)
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