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薄暗い地下室の中で、玉台に敷きつめられたフェルトの緑色が強く目に沁みた。玉と玉のぶつかり合う音が、玉台のまわりを歩き 廻る二人の足音に重なって、大きく小さく響き合っていた。それは曇り空の下にひろがる長方形の暗い草原の中から、どうにかして逃げだそうとあがいている血塗られた小動物のように見えた。逃げだそうとしては何度も跳ね返され、赤玉によって寄りそわされたり、離ればなれにさせられたりしながら、白い二つの小動物は、全速力で走ったかと思うと突然その場にとどまって息を整えるのである。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 ページ位置:8% 作品を確認(amazon)
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......と、丸椅子に腰かけてゲームを見ていた。スリークッションは一気に勝負のつくことのないゲームだと思っていた。それは邦彦が素人の遊びしか見たことがないからであった。 薄暗い地下室の中で、玉台に敷きつめられたフェルトの緑色が強く目に沁みた。玉と玉のぶつかり合う音が、玉台のまわりを歩き廻る二人の足音に重なって、大きく小さく響き合っていた。それは曇り空の下にひろがる長方形の暗い草原の中から、どうにかして逃げだそうとあがいている血塗られた小動物のように見えた。逃げだそうとしては何度も跳ね返され、赤玉によって寄りそわされたり、離ればなれにさせられたりしながら、白い二つの小動物は、全速力で走ったかと思うと突然その場にとどまって息を整えるのである。 邦彦は三個の象牙の玉をじっと見ていた。コンクリートの床から冷気がせりあがってきていた。若い男の吐いた煙草の煙が、幾条もの縞となって換気扇に吸い込まれていた。 ......
単語の意味
草原(そうげん・くさはら)
曇り空(くもりぞら)
草原・・・一面に草が生えている広い野原。
曇り空・・・曇っている空。
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