（離婚）僕らはうまくやっていた。でも彼女が求めているもの、彼女が頭に描いているもの、と僕の存在の間には決定的な差があった。妻はコミュニケーションの自立性のようなものを求めていた。コミュニケーションが染みひとつない白旗を掲げて人々を輝かしい無血革命へと先導していくようなシーンを。完全性が不完全性を呑み込んで治癒してしまうような状況を。そういうのが彼女にとっての愛だった。僕にとっての愛とは不器用な肉体を与えられた純粋な概念で、それは地下ケーブルやら電線やらをぐしゃぐしゃと通ってやっとの思いでどこかに結びついているものだった。すごく不完全なものだった。ときどき混線もする。番号もわからなくなる。間違い電話がかかってくることもある。《…略…》僕は彼女に説明した。何度も何度も。 でも彼女はある日出ていった。

夫と妻と子供、という定型を失って

（離婚）夫婦の愛をつないできた絆は、長年の無視や苦痛のため擦り切れてしまった。

私は離婚はしたくない、そうも思った。離婚はいろんな意味で悲しすぎる。まだ咲いてない花のつぼみを茎からばしっと折ってしまったみたいだ。なじんだ毛布をごみ袋に入れてごみ捨て場にぽいっと捨ててくる帰り道みたいだ。切れようがないものをぶちっと切った残骸が風でひらひらしているみたいだ。

一度結婚をしてみて、おかげで人生に忘れ物をしたような気分にならなくてすむし、結婚がそれほどすばらしいものとも思わない。

大通りを避けて脇道に入っても、その道も混んでいて、運転している隆大はいらついている。

その部屋の前に立ったとき、硝子戸の内側にいつも映っている薄桃色のカーテンは無かった。磨り硝子は暗く、ひやりと冷たい感じで内部の空虚を伝えていた。

（パーティー）社交界

鉄砲玉みたいに飛び出したまま帰ってこない

前の車からブレーキランプが消え、ゆるゆると渋滞が動き出す