街を吹く五月のすがすがしい風は、秋のように身にしみるなり。

「風邪はね。」うららは少しまつげをふせて淡々と言った。「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえし風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういう、しくみだから。そう思うと、こういうのがまたあるのかっていやんなっちゃうっていう見方もあるけど、こんなもんかっていうのもあってつらくなくなんない？」

苦しくて、苦しくてたまらない。然し転（ころ）んで歩けば歩く程、雪ダルマのように苦しみを身体に背負い込んだ。

気が遠くなるような苦しさを覚えた。

治りかかった傷の皮を剥ぎ取るような苦痛

無性に痒くて、引っ掻いても叩いても気がすまない

顔は勃発する衝動を叩（たた）かれた苦悩のために歪（ゆが）んで来た。

その痛みは顔をしかめなくてはならないほど深い。

頭が寺の鐘になって、坊主にがんがん撞かれてるような感じ。

感情の扉はぴたりと閉ってしまっている。