ハイヒールの踵くらいの小さな墓

（墓地）五月の柔らかな日ざしの下では、生も死も同じくらい安らかなように感じられた。

小鳥は、「立ち入り禁止」と書かれた柵の中に穴を掘って埋められ、誰かがゴミ箱から拾ってきたアイスの棒が土の上に刺されて、花の死体が大量に供えられた。

無数の死を築く墓地の方からは、人間の毛髪の一本一本を根元から吹きほじって行くような冷めたい風が吹いて来た。

段々状になった 墓苑 には、見晴るかす先まで整然と墓石が立ち並んでいる。

（小説の新人賞の選考委員の会話）「でもチャンスを与えてやるのは悪いことじゃないでしょう」と天吾は言った。「水に放り込んで、浮かぶか沈むか見てみろ。そういうことか?」「簡単にいえば」「俺はこれまでにずいぶん無益な殺生をしてきた。人が溺れるのをこれ以上見たくはない」

軍人と資本家と政治屋とがはじめたこのばくちのような戦争

開演直前の空気をさらに盛り上げるべく流れ始めたオーバーチュア、その重低音にぐいぐいと背中を押されているような気分だ。何度経験しても、この瞬間の興奮は鮮度が落ちない。

空を見ると、四機の急降下爆撃機が悪鬼のように降りかかってきた

永久（とわ）の住家（すみか）