（自動改札機を通り抜けたところ）夕方のラッシュアワーがはじまりかけていて、もたついていると無言の人の群れが前後左右からぶつかってくる。

色とりどりのネオンがともり始めた街の通りを、黒々としたコートに身を包んだ無表情なサラリーマンたちが暗流を遡る冷やかな鮭の群れのように均一な速度で流れていた。

人々が足早に歩いていく。仕事を終えて帰路につく人々はみんな同じような歩き方をする。

（ラッシュアワーの駅の階段で）人の流れに押されて立ち止まることもできず、《…略…》悪夢のなかでもがくふうに残りの段を上る。

（帰宅する人々）年代や境遇によって多少の差こそあれ、彼らはそれぞれに生活に疲れ、人生に飽いているように見えた。希望は色褪せ、野心は置き忘れられ、感性は磨り減り、あとの空白に諦めと無感覚がそれぞれ腰を据えていた。まるで二時間前に抜歯手術を受けた人のように、彼らの顔色は暗く足取りは重かった。

海が乾く日

二十分で行ける道程が、土曜日曜には二時間もかかった

まだ心はサイパンの海のそばをさまよっている

墓石は黒い坊主頭のように並んでいた。

「えっ？　朔美？　感じ変わったね。」 「えっ？　ほんと？」 「よく見ないとわかんなかった。」 「新郎側の 親戚 かと思った。」 　金ぴかの披露宴会場で、ひらひら着飾って真っ白に化粧した若い女の群れに口々にそう言われたら何だかおかしな気分になった。 　天界のものたちにありがたくてしかたないことを言われてるみたいだった。