（恋に奥手）好きな人を目で追うことしかできない

閉じていく（エレベーター）のドアはまるでカメラのシャッターだ。姿が視界から消えても、安藤の脳裏には女のポートレートが鮮明に残った。《…略…》全体像が克明に記憶されてしまった。彼女の肖像は、いつまでたってもぼやけそうにない。

友達として始まった関係だ。それがどこかの時点で性質を変えた。

（片思い）冬の間は穴ごもりをして暮す蛇があるように僕の恋もじっと動かぬままに燃えていたのである。

宇宙間にただ二人きり居るような心持

睦子の唇が、私の 頰 に強くつけられた。幼児の清潔で豊富な唾液。 　私も睦子の 頰 に唇をつけた。 　唇を合わせたかったが、あまりに睦子の唇が小さく可愛らしく、ためらわれてまた 頰 をつけた。

22 歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、 完膚 なきまでに叩きつぶした。

（再婚について）新らしく着物を着変えるようにしか思っていない

闇夜の中でいじられると情けないことには体は心の言うことを聴かなくなり

二人の愛の熱度がシーソーのように上下する