（戦車の光）前方の林に、巨人の眼のように輝いて動く、数個の光源が並んでいる

（空襲）火の海のようになった。

焼夷弾が雨のように火の尾を曳（ひ）いて降りそそぐ

戦争中の日本は嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさが咲きあふれていた。

敵兵の焼け焦げる臭い

ネコがネズミをいたぶるように次々と攻撃してくる。

一枚の新聞紙が燃えてしまうのを見ているより、他愛なかった。

空襲のサイレンが深夜の空に不気味に鳴り響く

（入院中の爺さんをお見舞いに来て爺さんに怒鳴られて）老婦人は顔を伏せてちぢこまっているが、別にしょんぼりしている様子でもない。四十年も五十年もこの調子でどなりつけられてきて、何も感じなくなっているのだろう。《…略…》 （婆さんが言う）「すみませんねえ。うるさい、きたない年寄りで……」　テーブルの下の棚から、やっと「突き匙」が出てきたときには、吉田老は怒り過ぎたのか、いささかぐったりとしていた。姿勢をしゃんと正さず、半分起きた状態で果物を口に運ぶために、喉仏から鎖骨のあたりに果汁がぼたぼたこぼれ落ちる。婆さんはそれを見て、またしきりに〝きたない〟〝きたない〟と繰り返すのだった。　最初のうち、おれはこの老夫婦の会話をほほえましく聞いていたのだ。昔ながらの封建的だが駄々っ子のような亭主と忍従型の老妻とのやりとりとして。　誤算だった。　婆さんの顔は、押さえきれない喜びに輝いていた。　婆さんは、いまやじっくりと復讐を楽しんでいるのだった。愚鈍を装って、傲慢な夫の神経に、一本一本細い針を突き立てている。ののしられ、婢（はしため）あつかいされ続けたこの半世紀の間、婆さんはじっとこの日を待ち続けて耐えてきたのだろう。いまや、吉田老に残された武器は、どなり慣れた口だけだ。それも所詮は空砲だ。婆さんはいま、案山子の正体を知ったカラスになって、じわじわと一本足の吉田老に近づいていくのだった。

犬の噛み合いのような喧嘩

大学病院の周りの道路はひどく混雑している。病院内に入ろうとする外来患者の車の列が公道まではみ出し、渋滞を引き起こしている。

影のようにひっそりとした参列者

空襲のサイレンが深夜の空に不気味に鳴り響く

弾丸のように行って、弾丸のように帰ってくる

四機の爆撃機から、爆弾が離れるところが見えました。時間としては一瞬の事だったのでしょうが、まるでスローモーションの映像のようでした。四つの爆弾がゆっくりと笑うように降りかかって来ました。空気を切り裂くその音はまさしく鬼の笑い声のようでした。