「あの時何をしたんだ？」言葉が頭に達するまで数秒を要した

記憶を引っくり返していた。

（記憶をたどる）記憶はほぐれた繭のように、あとからあとからと、糸をひく。どこまでたぐればその繭がすっかり糸になってしまうのか

映画のハッピーエンドのように、その光景は静かにフェイドアウトしていく。

日めくりをとばすように記憶を走らせる

記憶の天袋の戸が次々と開いていく。ぱたん、ぱたん、と開いては閉じる。そこから覗く過去の場面は、埃を被ってはいるものの、一定の生々しさを備えていて、子供の頃の体験とは思えないほどの臨場感があった。

マストをかすめる鳥の翼のように大きな影が心を通りすぎた。鳥の翼は今幾つかの思い出を（運んできた）

初恋いの憶い出が、白い泡のように、ふつふつと胸によみがえって来るのを覚えた。

楽しかった時間の輝く結晶が、記憶の底の深い眠りから突然覚めて、今、私たちを押した。新しい風のひと吹きのように、私の心に香り高いあの日々の空気がよみがえって息づく。

記憶の片隅にこびりついていた。