日が陰って、白く光っていた瓦の屋根が黒ずみ、じきに桜の若葉が雨に濡れ始めた

か細い糸のようなしずくが、いくつもいくつも窓を伝っていた。向かいの家も電信柱もジュジュの犬小屋も、ただじっと静かに雨に濡れていた。流れるしずくより他に、窓の向こう側で動いているものは何もなかった。

丘と原は雨に煙っていた。雲がさがって、丘の頂の木を包み、突然吹く風に、低く遠く吹き散らかされた。その度に野を 蔽おおう雨の 条すじ に、 縞しま が移動した。

ラウンジの大きな窓からは初秋の雨が見えた。雨はあいかわらず音もなく降りつづき、その奥の方に街の光が様々なメッセージをにじませているのが見えた。ラウンジには客の姿は殆んどなく、湿っぽい沈黙があたりを支配していた。

銀色の雨しぶきのなかで、樹々の 梢こずえ が海草のようにゆれ動く。

靄に透けてわずかに見える

しとしとと絹糸のように降りつづけている

ポタリポタリ

重い灰色で幾層にも 覆われた空から透明な水滴が勢いよくざあざあ音を立てて降る。

ホテルの窓からは隣りのビルのネオン・サインが見えた。その緑の人工的な光の中を無数の雨の線が地表に向けて走っていた。窓際に立って下を見下ろすと、雨の線は地表の一点に向けて降り注いでいるように見えた。