偵察機 が一機、獲物を 狙う鳥のように、小さな円を描いて旋回していた。

（敵機の爆音の）その 蜜蜂 の羽音のような単調な 唸り

四機の爆撃機から、爆弾が離れるところが見えました。時間としては一瞬の事だったのでしょうが、まるでスローモーションの映像のようでした。四つの爆弾がゆっくりと笑うように降りかかって来ました。空気を切り裂くその音はまさしく鬼の笑い声のようでした。

（ドッグファイト）二機は互いに距離を詰めていく。俺は宮部の後ろにつこうと大きく左に旋回した。奴も同じように旋回している。ぐんぐん距離が詰まり互いに相手の後方に取りついた形になった。巴戦というやつだ。英語ではドッグファイトというらしい。二匹の犬が互いに相手の尻尾に 嚙 みつこうとぐるぐる回るところから名付けられたそうな。 　互いに翼を傾けて、急旋回を続けた。すりばちを滑るように二機の零戦が回っていく。

轟音 が空に響いた。大型爆撃機の編隊が、頭上の狭い空を渡るところであった。 鳳おおとり のように翼を延ばして、空の青に 滲み、雲から雲へ隠れて、のろく早く過ぎた。音が空に満ち、地に反響して、耳に唸りを押し込んだ。

（スポーツカー、マセラティ）敏感でアグレッシブな車だった。反応が鋭く、パワフルだった。アクセルをちょっと踏むと月まで飛んでいってしまいそうだった。 「そんなに頑張らなくていいんだよ。気楽にやろう」と僕はダッシュボードをとんとんと叩き、マセラティに言いきかせた。

機関車が、真っ黒な大きな獣のよう

古自動車なので、雨がガラス窓に叩かれるたび、霧のようなしぶきが車室にはいってくる。

左右の景色は瞬く間に流れていく

駅を出た電車は少しずつスピードを上げる。街の灯はだいぶまばらになった。もうすぐ電車は多摩川の鉄橋を渡る。そこを境に気温がぐんと下がって、窓が白く曇ってくるだろう。秋の終わりだ。