視界の右端に映る身体が強烈な存在感をもち、彼女がステアリングを操作する度に彼の股間に力が入った。勃起はしていない。ただユナの腕の動きに合わせ、マリオネットのように先端が首をもたげるのだ。さっきまでかいていた汗はクーラーのおかげでひいていくが、彼の身体の奥はうだるように熱い。カーオーディオから流れる黒人歌手のシャウトが、ミラーに吊り下げられたスティッチの揺れ具合が爆発を促しているような気さえする。

野獣のような熱情

野呂 に聞いてみたことがある。勃起する時、どんな気持ちになるものなの、と。 　野呂は少し考えたあとで、こう答えた。今ここにたまっている、いまいましいやつを全部、残らず吐き出してしまいたい、っていうのかな、そんな気持ちになるんだよ、と。 　どうしてそれがいまいましいの、とわたしは重ねて聞いた。 　野呂は笑った。そして言った。だってそうじゃないか、精液なんて、吐き出そうが吐き出すまいが、どっちだっていいと頭では思ってるのに、一か所にそれが集まってきて、ひしめいて、マグマみたいに熱くなって、持ち主の考えてることなんか絶対的に無視されるんだからね……。

そのキスは決まって、朝の眠たい身体の奥深く、生温かくくすぶっていた欲望の扉を開け放った。

（欲情）たとえば狭い 廊下 で 偶然 出会頭 に滝人名と 衝突 しかけることがある。そして両方でちょっとまごついて危うく身をかわし、ようやくすり抜けて行き過ぎるような場合がある。そういう時彼は胸でドキドキと血の動くのを感ずることがあった。それは不思議な 悩ましい快感であった。それが彼の胸を通り抜けて行く時、彼は興奮に似た何ものかで自分の顔の 紅くなるのを感じた。

死ぬほど恋しい

ある草や木が生きていられる、――最も自然ないい状態においてだね――場所というのはきまっているね。地面の上でさえあればいいというわけにはどうも行かんらしい――ある草は、北緯何度の地帯でしか生存できない。或は、赤道附近でしか生きられない。人工で温室に入れたり他の方法を用いたりして枯れないだけには保てないこともないさ。けれども、悲しいことには、そうされて生きる植物は実らない――繁殖できない。――ここが恐ろしい点だよ。人間も、どんな境遇にだって、ある程度までなら生理学上の命だけは失わずに生きられよう。が、地味が本ものでないと実らない。理想論だが、何だね、能うべくんば、人間互にその本ものの地味を作り、また与えたいもんだと僕は思うな。こういう話になったから率直に云うが――まあ、君らも――強いて一つの小さい、体に合わない植木鉢の中で揉み合っていなければならないこともなかろうさ

処女を捨てたいからって好きでもない人としたら、たぶん終わってすぐは普通だけど、だんだん取り返しがつかないほど後悔してぶつぶつひとりごとを言うようになり、自分の貞操を探して毎夜、上野公園の不忍池の辺りを這いずりまわる人生になるだろう。処女とは私にとって、新品だった傘についたまま、手垢がついてぼろぼろに破れかけてきたのにまだついてる持ち手のビニールの覆いみたいなもので、引っ剥がしたくてしょうがないけど、なんか必要な気がしてまだつけたままにしてある。自然にはがれたらしょうがないけれど、無理やり取っぱらうのは忍びない。

乳首をそっとつまむと、身体の中に電流のようなものが走る。

いつ始まって終わったのかわからないような類の関係