次の角を曲るとどういう家があって、左の坂を下りるとどんな家がある、と二人の散歩道がみんな分っているように、桑木は雅子の言葉を聞いてからこの先雅子との発展が予想できそうであった。

これは何の前ぶれなんだろう。このところ確かに私も彼のことを思い出す瞬間が増えていた。しかも回想としてではなく、雨空に、黒く 濡れたアスファルトに、街角の光るウィンドウにその面影がふいにフラッシュバックするのだ。ずっと忘れていたのに。

部屋に何か違う空気が混じっているように思えた。

私は、驚かなかった。無意識の領域で予期していたような気がした。

路地をぬけた別の道で睦子に出逢えるように思い、私は疲れながら予感の逃げ水を追って歩き続けた。

私はこれをきいた時、暗い部屋にパッと電灯がついたような気がした

彼が 風呂 に入っているときなんの気なしに台所のワゴンの上を見たら１通の封書が目に止まった。 　ひとの手紙なんて見やしないし、まして女文字ではなかったのでどうしてまじまじと見てしまったのかわからない。 　でも何かひっかかる 宛名 の書きかただった。 　だから、反射的に中身を見てしまった。 　そんなことは生まれて初めてすることなのに、なぜか後ろめたさはなく、見なくてはという確信だけがあった。

目を閉じた瞼の裏に光景ははっきりと浮かび、その後余韻を持って消えた

武内の印象を訊かれて少々言葉を濁した返事をしてしまった。彼女はそのことを敏感に感じ取って、気にしていたのかもしれない。

酒を飲みながら、イマジネーションの到来を待ち焦がれる。適度のアルコールを摂取して柔らかくなった脳が、論理の枠を踏みはずした奇想を生むことはよくある。