幸福なんて言葉、人はしょっちゅう使わないでしょう？

心の弾む日々を送っていた。

（幸福とは）道端にはしきりにそこいら中の人を呼びとめて「幸福とは何だと思いますか」と必死にたずねている人達がいた。《…略…》しかしそのおかげで、急ぐ私の心には一瞬、幸福を想う残像がすーっと桃色の尾をひいた。幸福をうたういくつかの名曲のメロディーも、次々と心に流れたような気がした。 　しかし、と私は思った。 　決して届かないふうなところに、もっと強く金色に光るイメージがあって、みんなが本当に欲しいのはそれなような気がする。希望とか、光とかを全部集めたよりももっと強烈なもの。 　それは、駅前で幸福についてたずねているとどんどん逃げていってしまい、お酒を飲みすぎるとぐんと近づいてきて、あたかも手に取れそうに思えるもの。

涙ぐむほどの幸せに漬かりきる

幸福感が十和子の全身を包み込む。

幸福感をかみ締める

私は幸せだった。 　ハイになっていたわけではなかった。ハイ、というのは必ずつけがまわってくる片手落ちの状態だ。ある夜、取り残していた部分が突然押し寄せてきたりする。 　私の状態はむしろ、「安心」に近かった。

日の当った風景の象徴する幸福な感情《…略…》そこには感情の弛緩があり、神経の鈍麻があり、理性の偽瞞がある。

幸せを感じる

ひしめきあうように湧き起こる幸福感

気まり悪かった。それで、「へへん」と田舎娘のような笑い方をして、

木（こ）の葉のように、空を漂って

興奮してワクワクする

陽気な声

彼に出会った瞬間から世界が変わった