城戸は、走り書きのメモを元に、二人から聴いた原誠の話を、記憶している限り、文章にしていった。

記憶が眠る山を鶴嘴（つるはし）で必死に削り、中から重要な情報を掘り出そうと試みる。

どうして今まで思い出せなかったんだろう。 　走りながら、内側から湧き出てくる記憶に目を凝らす。

記憶の天袋の戸が次々と開いていく。ぱたん、ぱたん、と開いては閉じる。そこから覗く過去の場面は、埃を被ってはいるものの、一定の生々しさを備えていて、子供の頃の体験とは思えないほどの臨場感があった。

（記憶をたどる）記憶はほぐれた繭のように、あとからあとからと、糸をひく。どこまでたぐればその繭がすっかり糸になってしまうのか

父が亡くなったのは二十六歳の時よ。今の健太郎と同じなのよ」 　宮部久蔵の履歴を頭の中で繰った。そしてあらためて、若くして亡くなったのだなと思った。

別れた人なぞは杳（はる）かにごま粒ほどの思い出となり果てた。

有無を言わさず摘み取られてしまったような幼い日を手繰り寄せる

またもう一度行ってみたいと思う、心にふれる街であった。

そう云われると謙作にはそれを見たような記憶がかすかにあった。