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言葉が終わると同時に、まち子は邦彦に近づいてきた。ただ単に、まち子は顔をあげただけかも知れなかったが、邦彦はそこに顔を埋めていった。それはすぐに離れて行ったが、初めて嗅いだ口紅の 匂いが、いつまでも邦彦の 唇 に残っていた。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 ページ位置:56% 作品を確認(amazon)
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......さくはかなく、遠い辺境の地であるかのように映るのである。 邦彦は自分の肩のあたりにあるまち子の顔を見た。「さくらんぼみたいやて。うち、さくらんぼ、嫌いやねん」 言葉が終わると同時に、まち子は邦彦に近づいてきた。ただ単に、まち子は顔をあげただけかも知れなかったが、邦彦はそこに顔を埋めていった。それはすぐに離れて行ったが、初めて嗅いだ口紅の匂いが、いつまでも邦彦の唇に残っていた。「小太郎、もう帰ってけえへんわ」 西風がふたりの後方から吹いて来て、水面に浮かんでいる一本の縄を流れとは反対の方向に動かした。川をのぼって行くよじれた短い縄を見......
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