（聞かれてはいけない話を聞かれていた）一方的に話し終え、受話器を置いたとき、家の中に気配を感じた。 　乃武夫が台所で水を飲んでいた。 「入るときは玄関から入れよ」 　自分でも声が震えているのが判った。 「みんな、居ないの？」 　屈託のない乃武夫の声に、ほっとしたのだが、やはり聞いていたのだ。

職業柄毎日たくさんの女性客と接しているせいか、企みや裏がある人には気づく。数えきれないほどの人数と初対面をくり返すうちに、ふとした瞬間の目の動きや表情の翳りで、本音と建前が乖離していることを察する。

うそというものはしかし、どんな精密なものでも結局は編みもので、一たんばれてほぐれかけたら、これまたとことんまで崩れてしまうものだ。

やっぱり、あのとき、乃武夫はいたのだ。 　あの声を聞かれてしまった。 　塩沢は、うしろから斬りつけられたような気がした。

（嘘をつくのが下手）「見たこともないよ」と羊男は言った。 　しかし羊男が鼠と羊について何かを知っていることは明らかだった。彼は無関心さを意識しすぎていた。答え方のタイミングが早すぎたし、口調も不自然だった。

言葉の微妙な陰影を理解する

見抜かれていたという思いからティエンの顔は、恥しさと怒りで赤くなった。

演技をしても無駄です。僕の目はその裏側を見ている。

心の隅っこが、あり得っこない結論の尻尾をつかむ。

敏感に感じ取る

市場でたくさん積みあげた野菜や、種類のちがった魚や肉をみれば、献立のアイディアもたやすく頭に浮かんでくる

どこかに行っちゃうのかもしれない。 　何故だかわからないけれど、稲妻が落ちるように、愛子はそう思った。

（男の前を通り過ぎようとした）その一瞬、暴力的な思念が強烈な電流のように青豆（女の名）の肌を貫いた。ポニーテイル（の男）の手がさっと伸びて、彼女の右腕をつかもうとした。《…略…》そういう生々しい一瞬の気配がそこにはあった。《…略…》この男は私が何かをおこなったことを感じ取っている。この部屋の中で何かがもちあがったことを直感的に認知している。何かはわからないが、ひどく不適切なことが。彼の本能は「この女を捕らえなくてはならない」と告げている。《…略…》確証はない。単なる思い違いであった場合には、ひどく面倒な立場に置かれることになる。彼は激しく迷い、そして結局あきらめた。《…略…》青豆はポニーテイルの意識がその一秒か二秒のあいだに通過した一連の段階を、ありありと感知することができた。

あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。

野良犬のような本能で嗅ぎつける

嘘は雪だるま式に膨らんでいきます。嘘が嘘を呼んで、嘘と嘘との間の関係性がますますややこしいものになり、たぶん最終的には誰の手にも負えないものになってしまうことでしょう。

「パードレよオ。パードレよオ」 　まるで母親にまつわりつく幼児のように、哀願の声が続いて、

言葉に偽りの匂いがする

中途半端な感情など一切受け付けてもらえない

ある事ない事いう