(数学者が難問の数学を解くこと)「こんなもの、ただのお遊びにすぎない」 謙遜するというよりは、淋しげな調子で彼は言った。 「問題を作った人には、答えが分かっている。必ず答えがあると保証された問題を解くのは、そこに見えている頂上へ向かって、ガイド付きの登山道をハイキングするようなものだよ。数学の真理は、道なき道の果てに、誰にも知られずそっと潜んでいる。しかもその場所は頂上とは限らない。切り立った崖の岩間かもしれないし、谷底かもしれない」
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 ページ位置:19% 作品を確認(amazon)
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数学者
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......問は、相変わらず数学だった。長時間の集中を要求される問題に取り組み、しかもそれを解いて懸賞金まで獲得するのだから、素晴らしいことだと私が誉めても、喜ばなかった。「こんなもの、ただのお遊びにすぎない」 謙遜するというよりは、淋しげな調子で彼は言った。「問題を作った人には、答えが分かっている。必ず答えがあると保証された問題を解くのは、そこに見えている頂上へ向かって、ガイド付きの登山道をハイキングするようなものだよ。数学の真理は、道なき道の果てに、誰にも知られずそっと潜んでいる。しかもその場所は頂上とは限らない。切り立った崖の岩間かもしれないし、谷底かもしれない」 夕方、ルートの「ただいま」の声が聞こえると、どんなに数学に熱中していても書斎から出てきた。考えている時間を侵されるのをあれほど憎んでいたのに、ルートのためには......
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数学者の表現・描写・類語(職業・仕事のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(数学者)博士は私を呼ぶ時、必ずこう言った。 「ちょっとすまないが、君……」 たとえオーブントースターのつまみを三分半に合わせてもらいたいだけの時でさえ、ちょっとすまないが、の一言を付け加えるのを忘れなかった。ギリギリッと私がつまみを回すと、首をのばし、トーストが焼き上がるまでオーブンの中を覗き込んでいた。まるで私の示した証明が、一つの真理に向かって進んでゆく様を見届けようとするかのように、そしてその真理がピュタゴラスの定理と同等の価値を持つとでもいうかのように、トーストに見惚れていた。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
(数学者が難問の数学を解くこと)「こんなもの、ただのお遊びにすぎない」 謙遜するというよりは、淋しげな調子で彼は言った。 「問題を作った人には、答えが分かっている。必ず答えがあると保証された問題を解くのは、そこに見えている頂上へ向かって、ガイド付きの登山道をハイキングするようなものだよ。数学の真理は、道なき道の果てに、誰にも知られずそっと潜んでいる。しかもその場所は頂上とは限らない。切り立った崖の岩間かもしれないし、谷底かもしれない」
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
(数学者)言葉の代わりに数字を持ち出すのが博士の癖なのだと判明した。他人と交流するために彼が編み出した方法だった。数字は相手と握手をするために差し出す右手であり、同時に自分の身を保護するオーバーでもあった。上から触っても身体のラインがたどれないくらい分厚くて重く、誰一人脱がせることの不可能なオーバーだった。それさえ着ていれば、彼は取り敢えず自分の居場所を確保できた。
小川洋子「博士の愛した数式 (新潮文庫)」に収録 amazon
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(筋肉ストレッチ)彼女は男の全身の筋肉を手順に従って解きほぐしていった。すべてのポイントは彼女の頭の中のチェック・リストに記入されている。そのルートを機械的に、順序通りたどっていけばいいだけだ。夜中に懐中電灯を持ってビルを巡回する、有能な恐れを知らぬ警備員のように。
どの筋肉も多かれ少なかれ、詰まっていた。厳しい災害に襲われたあとの土地みたいだ。多くの水路が堰き止められ、堤が崩されている。《…略…》彼女はそれらの筋肉をひとつひとつ締め上げ、強制的に動かし、極限まで曲げたり伸ばしたりした。そのたびに関節が鈍い音を立てた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
(元軍人)彼の身のこなしには、長年軍隊にいたものの身に自然にそなわってくる、あの放浪者型の無頓着さと疲労の跡とがあったが、それにもかかわらず、そこには、軍隊生活と戦闘の苦しみをきりぬけてきた人間が内にもっている強さが感じられた。
野間 宏 / 顔の中の赤い月「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
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