精気のない白玉の動きだったが、それは邦彦の息をふっと一瞬とめてしまうほど微妙に、薄く薄く赤玉をかすめていく
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 ページ位置:12% 作品を確認(amazon)
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ビリヤード
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前後の文章を含んだ引用
......、いま母は自分と同じ車に乗り合わせて、流れて行く。自分はひとりぼっちになってしまった。流れて行く、……流れて行く。 我に返ると、渡辺の突いている姿が目に入った。精気のない白玉の動きだったが、それは邦彦の息をふっと一瞬とめてしまうほど微妙に、薄く薄く赤玉をかすめていくのだった。 邦彦は、こんどは玉台の上から目を離し、渡辺耕三の顔ばかり見つめた。さっきの政夫の意味ありげな言葉を思い起こした。自分とは似ても似つかぬ顔立ちをした痩......
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薄暗い地下室の中で、玉台に敷きつめられたフェルトの緑色が強く目に沁みた。玉と玉のぶつかり合う音が、玉台のまわりを歩き 廻る二人の足音に重なって、大きく小さく響き合っていた。それは曇り空の下にひろがる長方形の暗い草原の中から、どうにかして逃げだそうとあがいている血塗られた小動物のように見えた。逃げだそうとしては何度も跳ね返され、赤玉によって寄りそわされたり、離ればなれにさせられたりしながら、白い二つの小動物は、全速力で走ったかと思うと突然その場にとどまって息を整えるのである。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
(ビリヤード場)煙草のけむりが 眩 ゆい天井に固まってたゆとうている。ポケット・ゲームのボールが、赤や黄や茶の帯をくねらせて転げ 廻り、 象牙 の玉の音が強く弱く絶え間なく八台のテーブルの上で響いていた。立てたキューが台の周囲を囲み、危うく天井の 蛍光灯 に当たりそうになり、 澱んだ空気を 攪拌 して、笑い声やら叫び声やら、ぶつぶつつぶやく低い声の中で泳いでいた。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
(ビリヤード場)学生らしい男や女連れの遊び人が、無茶苦茶な突き方で、ただ玉を突いて遊び興じている
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
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(久しぶりのビリヤード)革箱から玉を出し、軽く突いてみた。キューを伝わって、 懐しい弾力が肩のつけ根まで響いてきた。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
身体が真直ぐ直角に水を突き抜けて、しぶきがほとんど飛び散らなかった。小さな泡が沸き上がった後、水面はすぐに滑らかになった。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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