気の抜けた炭酸水のボトルのキャップを回した時のような、力ない笑いが漏れた。

葉子の顔に、乳房（ちぶさ）を見せつけられた子供のようなほほえみがほのかに浮かび上がった。

悪戯（いたづら）をして、それを見つけられさうになつた子供が、年長者に向つてするやうな微笑である。鼻の先へよせた皺（しわ）と、眼尻にたたへた筋肉のたるみとが、笑つてしまはうか、しまふまいかとためらつてゐる

赤い唇がにやりと気味悪く笑う

口元にふと、微笑とも羞恥ともつかないものが浮かんだ

美人なるものは、顔立ちが画一的という平均的

幸福な暮しをする人妻でなければ持たないような中年の女の、輝くような美しさ

天才が持つと称せられるあの青色をさえ帯びた乳白色の皮膚、それがやや浅黒くなって、目の縁（ふち）に憂いの雲をかけたような薄紫の暈（かさ）、霞（かす）んで見えるだけにそっと刷（は）いた白粉（おしろい）、きわ立って赤くいろどられた口びる、黒い焔（ほのお）を上げて燃えるようなひとみ、後ろにさばいて束ねられた黒漆（こくしつ）の髪、大きなスペイン風（ふう）の玳瑁（たいまい）の飾り櫛（ぐし）、くっきりと白く細い喉（のど）を攻めるようにきりっと重ね合わされた藤色（ふじいろ）の襟（えり）、胸のくぼみにちょっとのぞかせた、燃えるような緋（ひ）の帯上げのほかは、ぬれたかとばかりからだにそぐって底光りのする紫紺色の袷（あわせ）、その下につつましく潜んで消えるほど薄い紫色の足袋（たび）（こういう色足袋は葉子がくふうし出した新しい試みの一つだった）そういうものが互い互いに溶け合って、のどやかな朝の空気の中にぽっかりと、葉子という世にもまれなほど悽艶（せいえん）な一つの存在を浮き出さしていた。

大輪の花のように美しい女性

末娘は若妻の花が咲いたように美しくなって

薄っすりとした笑いを心に感じる

微笑が顔に輝いた。

下顎を震わせて俯く

つぶてのように固そうな痰

深い喜びから出た微笑を唇のほとりにボンヤリ含ませる

笑いすぎて内臓がおかしくなりそう

人差し指で銀色のめがねのフレームに触れながら、うつむき加減にそっと微笑む。左手の透き間から、柔らかい息がほのかにもれてくる。それは確かに微笑みでありながら、伏せられたまつげのために、切ないため息のようにも思える。

控えめで人懐っこい微笑

あはは、と悟郎はのけぞるようにして笑い声をあげた。

くすくす笑いじゃなくて、胸の辺りから笑いの漣がこみ上げてくる感覚

主従以上に親しかった

美醜を超えてチャーミングだと思わせる人

彼女の容姿にはもともと物語風なところがあった。物語に出てくる恋する乙女そのままの風情だった。

箸が転んでもおかしいような年頃

男という獣類