駆逐艦は翼をおさめた灰色の水鳥のように、見えない程に身体をゆすって、浮かんでいた。それは身体全体が「眠り」を貪（むさぼ）っているように見えた。

錨を上げたり、下したりする度に、コンクリート・ミキサの中に投げ込まれたように、皆は跳（は）ね上り、ぶッつかり合わなければならなかった。

石炭をつんだ船が、ポンポンポンポンとのどかな音を立てて、河を上ったり下ったりしている。

港を出離れて木の葉のように小さくなった船

（夜の海で）船は風に逆らい、黙って闇へ突き進む。それは何か大きな怪物のように思われた。

視界の右端に映る身体が強烈な存在感をもち、彼女がステアリングを操作する度に彼の股間に力が入った。勃起はしていない。ただユナの腕の動きに合わせ、マリオネットのように先端が首をもたげるのだ。さっきまでかいていた汗はクーラーのおかげでひいていくが、彼の身体の奥はうだるように熱い。カーオーディオから流れる黒人歌手のシャウトが、ミラーに吊り下げられたスティッチの揺れ具合が爆発を促しているような気さえする。

車のフロント・ガラスの内側に赤い血糊がハイビスカスの花のように散っていた。

速いスピードで走り続ける車は、とうに町を出て、山間の地形に沿って曲がりくねる国道をどんどん進んでいく。奈々絵の視界にはフロントガラス越しに暗い、先は何も見えない闇が次から次へと現れ、そこを切り裂くように街灯の光が一定の間隔で現れては過ぎていき、自動車のライトはわずか先の道とその路面とを照らし続けた。

（激しい雨で）窓ガラスが滝をながしたようになって、景色もなにも見えない。

高速道路のうなりは十二時を過ぎてもまだ途切れない