花嫁の父は、微妙な表情をしていた。 　泣きそうなのでもなく、暗いわけでもない。ちょっと遠くを見るような顔だった。

「えっ？　朔美？　感じ変わったね。」 「えっ？　ほんと？」 「よく見ないとわかんなかった。」 「新郎側の 親戚 かと思った。」 　金ぴかの披露宴会場で、ひらひら着飾って真っ白に化粧した若い女の群れに口々にそう言われたら何だかおかしな気分になった。 　天界のものたちにありがたくてしかたないことを言われてるみたいだった。

花嫁はどんな年齢でもみんな真っ白だった。ベールもドレスのすそも。付き添いの子供たちも。ほんとうに天国みたいだ。

花嫁はすでに席に着いていて、えらく神妙な顔をしていた。 花婿 は手元を見つめて、やはり神妙にしていた。私はふたりの神妙でない顔をたくさん知っているのでおかしかった。まるで観光地の記念撮影みたいに、首だけ出して画面にはまっている人達のようだった。

（披露宴で同級生がそろい学生時代がフラッシュバックする）すぐに思い出した。ここにいるメンバーと教室を共にしていたときにしていた、授業中の居眠りのことだった。 　スピーチをするおじさんの、決して興味を持ちえない内容の話と低い声と、高い天井にそれが響く具合がある午後の授業をフラッシュバックさせたのだ。

やはり死は、厳かで静かで、じんと心の底に沈み込んでゆく重さを持っていた。

（空襲で燃える画集）この画集もまた数知れぬ白い輝きを連ねて夜空を押し渡り襲うて来るＢ 29 の重い翼の嵐の下に、はね上る油玉と共に燃え、ただ曲りくねった鉛のガス管や、紫色に焦げてゆがんだ裸の鉄骨や熔けて薄緑に固まったガラスの塊などの間に、形もない灰となって残ったのである。この写真版の絵画集が、油脂焼夷弾の飛び火を浴びて、綴り合わされた絵の一枚一枚が、流れる黒い液体のような炎の中に焦げて剝れながら燃えて行った

（京都）二人は詩仙堂にいた。簡素な木造の建物は杉林の中にあって、降り出した雪はまたもや恋人たちを浮世ばなれした小さな世界に閉じ込めた。

雨で黒く濡れた門柱は荒野に立った２本の墓石のように見える。

帝都の空を蹂躙するＢ29