(空襲で燃える画集)この画集もまた数知れぬ白い輝きを連ねて夜空を押し渡り襲うて来るB 29 の重い翼の嵐の下に、はね上る油玉と共に燃え、ただ曲りくねった鉛のガス管や、紫色に焦げてゆがんだ裸の鉄骨や熔けて薄緑に固まったガラスの塊などの間に、形もない灰となって残ったのである。この写真版の絵画集が、油脂焼夷弾の飛び火を浴びて、綴り合わされた絵の一枚一枚が、流れる黒い液体のような炎の中に焦げて剝れながら燃えて行った
野間 宏 / 暗い絵「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置:5% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
紙などが燃える
空襲・空爆
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......大の絵画集。これを深見進介に貸し与えた友、また彼と共にこれを繰り返し眺めた友は、ほとんどすべて若くして獄死しなければならないという生涯をたどったのである。そしてこの画集もまた数知れぬ白い輝きを連ねて夜空を押し渡り襲うて来るB29の重い翼の嵐の下に、はね上る油玉と共に燃え、ただ曲りくねった鉛のガス管や、紫色に焦げてゆがんだ裸の鉄骨や熔けて薄緑に固まったガラスの塊などの間に、形もない灰となって残ったのである。この写真版の絵画集が、油脂焼夷弾の飛び火を浴びて、綴り合わされた絵の一枚一枚が、流れる黒い液体のような炎の中に焦げて剝れながら燃えて行った時、この絵の中のひとでのような人間、犬の顔をつけた人間、尾をつけた裸の人間、あの暗い爛れたような穴を大事そうに股の間にもっている人間達が大きな如何なる力をもって......
単語の意味
焼夷弾(しょういだん)
夜空(よぞら)
鉛(なまり)
紫(むらさき)
焼夷弾・・・高熱を出して燃える薬剤(焼夷剤)が詰め込まれた爆弾。空から落として、敵の陣地や建物を焼き払う。
夜空・・・夜の空。
鉛・・・金属元素のひとつ。元素記号Pb、原子番号82。青みを帯びた灰色の金属。柔らかく腐食に強いため、古来より広く使われる。打撃を加えることで極めて薄い板状にできるが、引っ張られる力には弱く、細い線状にすることは難しい。湿った空気中で酸化し、表面が薄くくもる。有毒。
ここに意味を表示
紙などが燃えるの表現・描写・類語(火・煙・灰のカテゴリ)の一覧 ランダム5
青い焔が燃え、赤い表紙が生き物のように反り始め
梅崎 春生 / 桜島 amazon
このカテゴリを全部見る
空襲・空爆の表現・描写・類語(イベントのカテゴリ)の一覧 ランダム5
本館の屋上にのぼると、日ごとにF市の街が小さくなっていくのがよくわかる。実感としては小さくなると言うよりは焼けた部分が黄いろい砂漠のように毎日、拡っていくのだ。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
(F市での空襲)医学部とF市とは二里も離れてるのに窓がふるえるほど重い地ひびきが伝わり、高射砲の 炸裂 する音がパアン、パアンと聞えてきた。灰色の雲の中をB 29 が鈍い眠い音をたてて何時までも飛んでいた。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「火・煙・灰」カテゴリからランダム5
明るみの中の殊に明りの中軸になっている揺めく珊瑚の枝のような火体
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
芥川龍之介 / 偸盗
「イベント」カテゴリからランダム5
墓が、うずくまった獣のように、黒い地肌だけを見せて、ひっそりと静まりかえる
渡辺 淳一 / 白き旅立ち amazon
小鳥が石つぶての雨のように襲いかかる
飯田 栄彦 / 昔、そこに森があった amazon
商店街のはずれから境内への道まで露店がひしめきあっている。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
火・煙・灰 の表現の一覧
イベント の表現の一覧
風景表現 大カテゴリ