重たく垂れこめた雨雲と、果てしない怒濤の荒海との見境いもつかぬ遠い涯から、荒波のうねりが幾十条となくけもののようにおしよせて来ていた。

「ああ、鎮（しず）めたまえ、荒れ狂う流れを！　時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」 　濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

夜の闇（やみ）の中で、波が歯をムキ出すのが、時々青白く光ってみえた。

一種のテンポを取って高くなり低くなりする黒い波濤（はとう）のかなたには、さらに黒ずんだ波の穂が果てしもなく連なっていた。

陸地に近づくと波はなお怒る。鬣（たてがみ）を風になびかして暴（あ）れる野馬のように、波頭は波の穂になり、波の穂は飛沫（ひまつ）になり、飛沫はしぶきになり、しぶきは霧になり、霧はまたまっ白い波になって、息もつかせずあとからあとからと山すそに襲いかかって行く。山すその岩壁に打ちつけた波は、煮えくりかえった熱湯をぶちつけたように、湯げのような白沫（しらあわ）を五丈も六丈も高く飛ばして、反（そ）りを打ちながら海の中にどっとくずれ込む。

真っ白い砂と青と激しい波のコントラストが美しかった。

白波がかすかな潮の香と音とをたてて、その足もとに行っては消え、行っては消えする

生温かい風が、ここちよいぐらいそよそよと吹き渡ってる河原

灰色の漣（さざなみ）をよせる湖の水面が、磨くのを忘れた鏡のやうに、さむざむと開けてゐる。

沖縄の海底は月夜の浜辺のような微光がただよっている

夜の闇（やみ）の中で、波が歯をムキ出すのが、時々青白く光ってみえた。

波のしぶきが降って来る。腹を刔（えぐ）るような海藻の匂いがする。そのプツプツした空気、野獣のような匂い

浪は浪を呑み、捲き、煽（あお）り立て

傘を差してもほとんど意味がない

水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭（せ）ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。