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部屋の隅の天井板を破り、 梁 と梁のつくる直角のところに、太い薪用の割木を渡しその真中のところに麻の紐が巧みな結び目をつくってくくりつけてある。《…略…》紐はさらに死体の後頭部のところにもう一つ結び目をもっていて、そこで二本に分れて、細い白い頸の輪に食い入っている。 後頭部のぼんのくぼのところに食い入るように当っているその太い結び目。そして頸筋に捲き付いた麻紐は毛ののびはじめた頭髪をさかさになで上げるようにして、まるで頭部と頸部の境界線ででもあるかのようにその皮膚を変色させている。
野間宏 / 崩解感覚「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置:7% 作品を確認(amazon)
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首を吊る・首吊り(自殺)
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前後の文章を含んだ引用
......ら彼が日頃隠している彼の心の秘密や苦しみを招き寄せようとする。 及川隆一は部屋の内に足を入れた。そして向う向きになってたれ下っている死体の前にじっと立っていた。部屋の隅の天井板を破り、梁と梁のつくる直角のところに、太い薪用の割木を渡しその真中のところに麻の紐が巧みな結び目をつくってくくりつけてある。確かにその麻紐の結び目は軍隊生活を送ったものでなければつくることの出来ない梱包作業の技術を思わせる。そしてその麻の紐は柳行李などにかける弾力のある細手のものである。紐はさらに死体の後頭部のところにもう一つ結び目をもっていて、そこで二本に分れて、細い白い頸の輪に食い入っている。 後頭部のぼんのくぼのところに食い入るように当っているその太い結び目。そして頸筋に捲き付いた麻紐は毛ののびはじめた頭髪をさかさになで上げるようにして、まるで頭部と頸部の境界線ででもあるかのようにその皮膚を変色させている。頸部を締めているその紐の上にはあわび貝の形をした大きな耳が埃をかむったような白い汚れた色をして外につき出ている。及川隆一はこの耳の形を覚えていた。それは正にあの......
単語の意味
巧み・工・匠(たくみ)
頭髪(とうはつ)
首筋・頸筋(くびすじ)
巧み・工・匠・・・テクニック。技術、芸術的な工夫。また、それらのワザを持った人。
頭髪・・・髪の毛。
首筋・頸筋・・・首の両側から後部にわたる部分。首の後ろ側の部分。項(うなじ)。襟首(えりくび)。首根っ子・頸根っ子(くびねっこ)。
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首を吊る・首吊り(自殺)の表現・描写・類語(生と死のカテゴリ)の一覧 ランダム5
咽喉に黒い紐が毒蛇のように深く食い込む
斎藤 栄 / Nの悲劇 amazon
上衣を脱いで白いメリヤス編みのシャツ一枚になった上半身は肩が内側にすぼまり、円くだらりとしていた。両手は長く太もものところまでのび、掌を後に見せていた。そして白いズボンの裾から妙に白っぽい足の裏が、ひらひら動いているかのようにつき出ていた。が、その足のすぐ下には、頁数の厚い本がつみ重ねられ、数冊の本がくずれて頁を展げちらばっていた。荒井大学生は厚い法律書をえらんでつみ重ね、この上にのって紐をむすび、この長い足の裏でその書物のふみ台をけりくずしたのにちがいなかった。
野間宏 / 崩解感覚「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
髭を生やした男が、口から泡のようなものを吐き出し、首を吊っている。ゆっくりとではあるが、回転もしていた。足元に垂れている水溜りは、男の失禁によるものだろう。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
椅子を蹴った。椅子が揺れる。男の身体が落下し、途中でロープにより引っ張られる。天井の軋む音がする。《…略…》首に、黄色いビニール製のロープが食い込む。下顎から、耳の後ろへとロープの輪が締まる。鼻が、息を吸い込むために震えた。喘ぎ声が出る。 足が前後に動く。蹴られた椅子が倒れる。水泳の訓練を行うかのように、足は揺れる。揺れは速い。ほどなく、遅くなる。口から涎がこぼれた。泡が、喘ぎ声とともに、唇の端からこぼれる。両手が、首に食い込んだビニールロープに伸び、皮膚とロープの隙間を探している。爪が首もとの皮を引っ掻いた。 血圧が上昇したのだろう、顔面と眼球が赤く、滲んだ。首のまわりが膨らむ。痙攣がはじまる。身体から力が抜ける。顔面は色を失い、みるみる白で染まっていく。ふわっと浮かぶように力が抜け、身体が左右に揺れる。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
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魂の奥にもう一度純粋な生命が芽生えはじめるのを、ほのかに暖かい炎のように意識する
中村 真一郎 / 女たち amazon
死体が浜辺に打ちあげられて
梶井基次郎 / Kの昇天
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