別れた人なぞは杳（はる）かにごま粒ほどの思い出となり果てた。

ママの苦しみもママの顔も、もう遠くに去りつつあった。

どこかで見た顔だと思った。距離が離れているのと、まさかという思いから、一人の名前に行き当たるのには時間がかかった。

傘を忘れるみたいに、悪気もなく度忘れする

砂が両手からこぼれ落ちていくかのように、記憶が少しずつ失われる

泡のように浮かび上がってくる過去の思い出

忘れたいのにむやみに何度も脳内で再生される。

（回想録を書く）愛した、という強烈な記憶だけが絡まり合い、ほつれ合って、丸まった毛糸玉のようになってしまっているのを丹念にほどいていく

懐かしそうな声で思い出話

「あれって北村、覚えてる？　半月くらい前の、ボウリング」押しボタン式の信号前で立ち止まった時に、東堂が口を開いた。　それを引き金に、僕の頭は、螺子を捻られたように回転をはじめ、記憶を過去へ過去へと逆回しにする。該当の場面を探り当てたところで、再生をする。「仙台ボウリング」という看板と、むくれた西嶋の顔が映る。