台風が去ったあとの川には、畳や 窓枠 などと一緒に、額に納まったままの油絵や木製の置き物といった思いもかけない漂流物が流れてくる。付近の子供たちは、手に手に長い 竿 や網を持って河畔に集まり、めぼしい品を引きあげて晴れた空に乾かすのである。それが台風のあとの楽しみでもあった。そしてこんな日は、 鮒 や鯉の群れが、日がな一日川面に浮きあがって疲れた体をのんびり 癒していた。

散乱する立て看板や、首筋にねっとりと絡みつく 眩しい日差しが、台風の名残りを伝えていた。

ヒューヒューと風の叫び、その風に波がしらを折られる

きげん買いな天気は、一日のうちに幾度となくこうした顔のしかめ方をする。そして日が西に回るに従ってこのふきげんは募って行くばかりだ。

暗色の海原に続く所から波がわいて、闇（やみ）の中をのたうちまろびながら、見渡す限りわめき騒いでいる。

波のしぶきが降って来る。腹を刔（えぐ）るような海藻の匂いがする。そのプツプツした空気、野獣のような匂い

（時化の海を渡り）一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったように、船は何処か跛（びっこ）な音をたてて進んでいた。