事務所は前日で正月休みに入っていて、電車もそろそろ人が少なくなりつつあった。こんな時期に刑務所に来たこともなかったので、幾らか感傷的な気分になった。 年の瀬の静けさが、一年分の重みを、憂鬱にしっかりと加えていた。
平野啓一郎「ある男」に収録 ページ位置:62% 作品を確認(amazon)
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年末・年の瀬
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前後の文章を含んだ引用
......に、再び横浜刑務所まで足を運んだ。雪こそ降っていなかったが、曇り空で風が冷たく、自然と速くなる革靴の跫音が、アスファルトの歩道に、乾いた硬い音を響かせていた。 事務所は前日で正月休みに入っていて、電車もそろそろ人が少なくなりつつあった。こんな時期に刑務所に来たこともなかったので、幾らか感傷的な気分になった。 年の瀬の静けさが、一年分の重みを、憂鬱にしっかりと加えていた。 小見浦は、面会室に入ってくるなり、「ああ、朝鮮人の先生、お久しぶりです!」と、顎の先をこちらに向けて、片目を見開きながら言った。 城戸は、その様子に、少し頬を......
単語の意味
感傷(かんしょう)
憂鬱(ゆううつ)
感傷的(かんしょうてき)
正月(しょうがつ)
年の瀬(としのせ)
感傷・・・心を痛めること。心が感じやすく、傷つきやすいこと。
憂鬱・・・気分が落ち込んだ状態。重苦しい気分。メランコリー。
感傷的・・・心が感じやすく涙もろいさま。センチメンタル。
正月・・・1年の最初の月。1月。睦月(睦月)。とくに、新年の祝いをする期間の三が日、あるいは松の内(現在は普通7日まで) をいうことが多
い。
い。
年の瀬・・・年の終わりごろ。年の暮れ。年末。歳末。
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(戦前の東京)冬至がすぎると、夜毎に冴えわたってきて、町には暦売りが出て来るし、町の物音がちがってくる。 いまの東京の町の音は、車輛と工事の騒音のみになってしまい、これは春も夏も、師走だとて変ることがない。人の暮しにも季節がなくなってしまった。 町をながすさまざまな物売りの声や、道行く人びとの声までも、大晦日へ向ってあわただしく、 「押しつまってくる……」 のであった。
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
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根雪が氷のように磐 になって、その上を雪解けの水が、一冬の塵埃 に染まって、泥炭地 のわき水のような色でどぶどぶと漂っている。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
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