ペンキを何重にも塗り固めたキハ１２の運転台

三原は都電に乗るのが好きだった。べつに行先を決めないで乗る。行先を決めないというのは妙だが、何か考えに行きづまったときには、ぼんやり電車にすわって思案する。緩慢な速度と適度の動揺とが思索を陶酔に引き入れる。頻繁にとまり、そのたびにがたごととぶざまに揺れて動きだす都電の座席に身をかがめる。この環境の中に自分を閉じこめ、思考のただよいにひたるのである。

電車の通り過ぎる音が時折、壁越しに響いてくる。静かな街に突然、鉄の車輪と線路の摩擦音が鳴る。

ロマンスカーがオルゴールのような明るい警笛をひびかせて通る

汽車はだんだんゆるやかになって、まもなくプラットホームの一列（れつ）の電燈（でんとう）が、うつくしく規則（きそく）正しくあらわれ、それがだんだん大きくなってひろがって、二人はちょうど白鳥停車場（ていしゃじょう）の、大きな時計（とけい）の前に来てとまりました。

発動機船は輪切りにした細かい爆音を闇に吹き上げて

電車は次のホームにまるで船のようにゆっくりと、静かにたどりついた。

米内火艇が引っかいたような水脈を曳いて疾駆していた。

新幹線は止まったが、なかなか扉は開かず、水中で息を止め、吐き出すのを我慢するかのような、間がある。

遠くのほうで、クラクションの音が立ち上った。まるで湯気のように、細く細く漂う音の影が、空へ消えていく。