犬の子のようにくんくんと顔を寄せて嗅ぐ。

（着物に残る匂いで昔の恋人を思い出す）着物や帯や半衿のあらゆる汚れから来る体臭のモンタージュ

（二百年前のワインを嗅ぐ）「これが二百年前の香りなのね」 　感動して目を閉じている。口を半分開いて香りを味わうことに没頭している。

私は厭なコロロホルムの匂いを押し花のように鼻におし当てていた。

子犬のようにくんくんと顔を寄せて嗅ぐ

香気が噴煙のように沸き起こる

白い百合の花が三本入った花瓶が置かれていた。百合は大きく、瞑想に耽る異国の小さな動物のようにもったりしていた。

陽をたっぷり吸い込んであたたかい匂いをたてている

茶を売る 老舗 の店が近づいて来、その周辺に絶えずたちこめている粉茶の 匂いの中に入った。それはそのときの気分しだいで、立ち 停 まって改めて吸い込んでみたくなるような芳香であったり、我知らず足を速めて立ち去ろうとさせる寂しい 哀しい匂いの塊であったりしたが、いまの邦彦にはどちらでもない、霧散も揮発も 沈澱 もせず、ただひたすらその一線でゆらめいているぶ厚い匂いの 扉 に思えるのであった。

絶望を甘く煮つめたシロップのような香り。

こふっと小さなげっぷ

発情した馬のように荒い息を吐きながら。

溜息 のような煙を吐く。

酒にでも酔っているのか、わざとらしくつっぷして溜息（ためいき）をしていた。

火のような息づかいをしながら怒鳴った。