電話そして携帯電話の発明により、人はすれ違わなくなり、待ち合わせをする意味を失った。でも、つながらないもどかしさ、待っている時間の温かい気持ちが、あの震えが止まらないほどの寒気と一緒に僕の中で力強く残っていた。《…略…》すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを想っている時間そのものなのだ。
川村 元気 / 世界から猫が消えたなら ページ位置:35% 作品を確認(amazon)
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電話がない生活
携帯電話
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前後の文章を含んだ引用
......人間関係を預けていたものが、急になくなってしまい、とても不安になった。そして、何より不便だった。時計台の下で、ひとり待ちつづけたときの心細さは想像以上だった。 電話そして携帯電話の発明により、人はすれ違わなくなり、待ち合わせをする意味を失った。でも、つながらないもどかしさ、待っている時間の温かい気持ちが、あの震えが止まらないほどの寒気と一緒に僕の中で力強く残っていた。「あ、」 そのとき、ふと思い出した。「ここだ」 彼女の問い。彼女のいちばん好きな場所。それはこの映画館だ。 昔、彼女は言っていた。 この映画館が、私のためにいつも一席空けて待ってくれているような気がする。この場所は、私がその席に座ることによって完成する。 そんなことをいつも言っていたのだ。 正解を思い出した。すぐに彼女に伝えなくては。 携帯電話、と僕はポケットを探る。 ない。そう、ないのだ。 もどかしかった。すぐに彼女に正解を伝えたかった。僕はゆっくりと足踏みしながら、映画館を見上げた。 そのとき僕は気付いた。この気持ちが、学生時代に彼女からの電話を待っていたときの、あの気持ちと同じであることに。すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを想っている時間そのものなのだ。 かつて人間にとって、手紙が相手に届き、相手から手紙が届く時間が待ち遠しかったように。 プレゼントは、物〝そのもの〟に意味があるのではなく、選んでいるとき、相手......
単語の意味
もどかしい
もどかしい・・・物事が進展しそうなのに進展しない状況が続いて、イライラする。じれったい。
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疎ましい気持ちも一緒に閉じ込めるようにして携帯をたたむ
朝井 リョウ / 燃えるスカートのあの子「もういちど生まれる (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
二つ折りの機器をふるえる手でひらくと、骨が鳴るときに似た、パキという音が響き
綿矢 りさ / かわいそうだね?「かわいそうだね? (文春文庫)」に収録 amazon
自分の手のなかに彼の携帯電話がある光景を目にするのは、これが初めてだった。黒く四角いフォルム、使い込まれた雰囲気は、手にはなじまず、私が本物の主人ではないと訴えかけている。
綿矢 りさ / かわいそうだね?「かわいそうだね? (文春文庫)」に収録 amazon
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(電話に小布団を敷くと)ベルは、あきらかに丸くあたたかい音に変った。
向田邦子 / 花の名前「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 amazon
自分の手のなかに彼の携帯電話がある光景を目にするのは、これが初めてだった。黒く四角いフォルム、使い込まれた雰囲気は、手にはなじまず、私が本物の主人ではないと訴えかけている。
綿矢 りさ / かわいそうだね?「かわいそうだね? (文春文庫)」に収録 amazon
受話器を耳に当てると風の吹く音が聞こえた。流れに身を屈めて透明な水を飲む、美しい鹿たちの毛を軽く逆立てながら、狭い谷間を吹き抜けていく気まぐれな一陣の風だ。しかしそれは風の音ではなかった。機械を通して誇張された誰かの息づかいだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
インチキ金融会社とテレフォン・クラブのちらしがいっぱい貼りつけてある、ろくでもないまっ四角な電話ボックスの中。空には 黴びたような色あいの半月がかかり、床には煙草の吸殻が散乱している。ぐるぐると見まわしても、心を温めてくれるようなものはどこにも見あたらない。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
(国際電話)時差のことを思うと、いつも不思議な気分になる。かろうじてつながっているそのラインを、貴重に思う。
吉本 ばなな「N・P (角川文庫)」に収録 amazon
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