曇りガラスの向こうにシルエットが見える

東嶺寺（とうれいじ）の森がこんもりと黒く、暗い中に暗く写っています。

山々の黒い影が、闇よりもずっしりと黒く街を見つめている。

変圧器や鉄塔が複雑なシルエットを形作っている。

町の灯は遠く、男女の組はただ黒い影だけ

水の上にマバタキするような光

町の灯は遠く、男女の組はただ黒い影だけ

診察室をのぞくことができた。先生も看護婦もいなかった。そこは放課後の理科室のように薄暗かった。

遠く上野の電気燈が鬼火のように見えているばかりだ。

（道も分からない暗闇に灯したマッチの火に安心を得る）暗闇に点（とも）された火は、また彼の空虚な頭の中に点された火でもあった。彼は人心地を知った。 　一本の燐寸の火が、焔（ほのお）が消えて炭火になってからでも、闇に対してどれだけの照力を持っていたか、彼ははじめて知った。火が全く消えても、少しの間は残像が彼を導いた――