電気時計を眺めている限り、少くとも世界は動きつづけていた。たいした世界ではないにしても、とにかく動きつづけてはいた。そして世界が動きつづけていることを認識している限り、僕は存在していた。たいした存在ではないにしても僕は存在していた。人が電気時計の針を通してしか自らの存在を確認できないというのは何かしら奇妙なことであるように思えた。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 ページ位置:19% 作品を確認(amazon)
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時間が止まったように虚しい日々
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......スカイブルーのソファーの上でウィスキーを飲み、ふわふわとしたタンポポの種子のようにエア・コンディショナーの気持の良い風に吹かれながら、電気時計の針を眺めていた。電気時計を眺めている限り、少くとも世界は動きつづけていた。たいした世界ではないにしても、とにかく動きつづけてはいた。そして世界が動きつづけていることを認識している限り、僕は存在していた。たいした存在ではないにしても僕は存在していた。人が電気時計の針を通してしか自らの存在を確認できないというのは何かしら奇妙なことであるように思えた。世の中にはもっと別の確認方法があるはずなのだ。しかしどれだけ考えてみても適当なものは何ひとつ思いつけなかった。 僕はあきらめてウィスキーをもうひと口飲んだ。熱い......
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時間が止まったように虚しい日々の表現・描写・類語(寂しい・喪失感のカテゴリ)の一覧 ランダム5
彼女がアパートを出ていってしまってから既に一ヵ月が経っていた。その一ヵ月には殆んど何の意味もなかった。ぼんやりとして実体のない、生温かいゼリーのような一ヵ月だった。何かが変ったとはまるで思えなかったし、実際のところ、何ひとつ変ってはいなかったのだ。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 amazon
じりじりと砂をかむような時間がゆく。
吉本 ばなな / ムーンライト・シャドウ「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
二人のいる世界では、時が流れない。 橋本さんは川と小舟に譬えて話してくれた。川に浮かぶ小舟は、上流から下流へ、やがて海へと流されていく──それが、僕たちの生きている時間だ。橋本さんと健太くんの小舟は、五年前の事故で難破して、川の淀みに入ってしまった。海へ向かうことも、もちろん川をさかのぼることもできず、浮かぶでも沈むでもなく、ずっと同じ場所にある。
重松 清「流星ワゴン (講談社文庫)」に収録 amazon
世界中が動きつづけ、僕だけが同じ場所に留まっているような気がした。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 amazon
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